住宅の荷重を支えている基礎コンクリートですが、ひび割れが多数見受けられたり、コンクリートに鉄筋が入っていない無筋基礎のため、耐震強度不足があったりするお家が実はかなり多いのです。

そんな基礎コンクリートの補強工事で用いられるのが「ハイブリット工法」です。ハイブリット工法とは、強化繊維である「アラミド(炭素・カーボン)繊維シート」と接着剤兼強化材の「エポキシ樹脂」の組み合わせです。

かねてよりコンクリート補強で使用されているアラミド繊維ですが、「本当に基礎が強化されるのか・・。地震に強くなり、倒壊しなくなるのか・・」と半信半疑の方も多いです。

そんなアラミド繊維を用いた基礎コンクリートのハイブリット工法について、このページでは以下の内容についてご紹介していきます。

  • 基礎補強が必要な住宅の種類
  • 施工方法
  • 施工方法による相場
  • アラミド繊維と炭素(カーボン)繊維との強度の違い

床下点検・検査

基礎補強工事が必要な住宅について

住宅の基礎コンクリートの寿命は約30~40年と言われています。基礎の打設時の状況や、周辺環境、地震などの自然災害によって異なりますが、築20年を超えたあたりから劣化するスピードが上がってきます。

その中でも基礎補強工事が必要な代表的な原因を5つ記載しました。

  • 1981年(昭和56年)以前に建てられた家

日本の住宅では耐震基準がここ50年の間で大きく変更されています。住宅の基礎コンクリートで大きな基準変更は「1981年5月」に行われたもので、基礎の中に鉄筋をいれることが義務化されました。

当時の建物は「震度5」の地震に倒壊しないような耐震基準で、日本全国で震度5以上の地震が何回も起こっている昨今では、基礎にも大きなダメージが蓄積されています。

  • 鉄筋が入っていない家

昭和56年以前の住宅は基礎に鉄筋を入れることが義務付けられていなかったため、無筋基礎のお家がほとんどです。鉄筋が入っていないと、横の引っ張りに弱くなり、コンクリートが縦に割れてきます。

私どもで数多くの基礎点検を行った結果、無筋基礎の住宅では鉄筋が入っている住宅に比べてひび割れの数自体は少ないけれど、幅が極端に広がってしまうというお家が数多くあります。そのため、住宅の捻じれや傾きに繋がってしまいます。

  • 床下に地面が見えている(布基礎)の家

最近の住宅は床下(底版)をコンクリートで覆う「ベタ基礎」が主流です。建物の荷重や地震などの揺れを面で支え、地震などの自然災害や外的な力により強くするためです。

しかし、1990年以前の住宅ではこの底版がない住宅が多く、点で荷重を支えているため、1か所の負担が増えます。そのため強い力に対抗できずに、ひび割れが発生しやすくなっています。

地震などの自然災害でひび割れがある住宅

基礎の劣化やひび割れは鉄筋の有無や、布基礎、環境的要因などでも影響がありますが、地震などの自然災害は通常よりも強い力で基礎を劣化させます。

新築のお家でも地震前と地震後ではひび割れの太さや長さが悪化していることも多く、一度ひび割れが発生してしまうと、補修をしない限り閉じることはまずありません。そのため、同じ箇所に何度もダメージを受け最悪の場合倒壊する原因ともなりかねません。

  • 鉄筋の錆による爆裂現象が発生している

基礎コンクリートは鉄筋が入っていれば問題ないというわけではありません。地震などでもひび割れが発生したり、鉄筋が入っているからこそ起こる「爆裂現象」もあります。

爆裂現象とは鉄筋の錆によるコンクリート崩落現象のことです。よく基礎コンクリートの横のひび割れは家全体に起こる可能性があり気をつけなければならないと言われます。その流れはこちらです。

1.基礎に横のひび割れが出てくる
2.横のひび割れが家の全体的に広がる
3.ひび割れ部分のコンクリートが浮いたり、コンクリートが崩落し鉄筋が見える(爆裂現象)
4.家全体に爆裂現象が広がる

3番の段階になってくるとコンクリートは浮いて強度がでていない状態になります。そうなる前に早めの処置が必要になってきます。

  • コンクリートの劣化の原因は他にも

また、今ご紹介したもの以外にも基礎が劣化してくる原因を集めてみました。詳細な説明を別のページにも記載していますので、良ろしければご覧ください。

【他にも基礎の劣化の原因はこんなに】

  • 不同沈下やエフロなど基礎の劣化がみられる家
  • 高台に建てられたお家
  • バスや電車が家の近くを通る立地
  • 針状結晶があり、束石が崩れている
  • 基礎コンクリート打設時の施工不良がある
  • ブロック基礎のお家
  • アンカーボルトの位置にひび割れがある
  • 海や川、森林の近くに家があり、常に湿気が多い

上記に当てはまる方はこちらのページで詳細をご覧ください。
⇒基礎補強工事とは?施工方法や費用・ひび割れの原因、実際の症例について詳しく解説

基礎補強工事・ハイブリット工法とは?

基礎補強工事のハイブリット工法とは、強化繊維である「アラミド(炭素)繊維シート」と樹脂の中でもトップクラスの粘着力を持ち、 揺変性にも優れた「エポキシ樹脂」 の組み合わせで基礎コンクリートの強度を上げる工法のことを言います。

「アラミド繊維」とは高耐熱・高強度のスーパー繊維で、引っ張られる力に対して非常に強力な素材です。

宇宙船や、防弾チョッキにも使用される素材で、強度は鋼鉄の5倍以上ある代物です。基礎コンクリートに「アラミド繊維」を施工する場合、シート状になっている「アラミド繊維シート」を使用しています。

「エポキシ樹脂」は元々1930年代にスイスで歯科材料として開発されたのがきっかけで、硬化速度の調整や優れた接着性、耐久性で塗料や土木建築以外でも電子部品、複合素材などさまざまな分野で活躍している材料です。

ハイブリット工法で使用するエポキシ樹脂は中粘度の塗料でアラミド繊維シートを強力に接着するのに適した接着剤となっており、単体で塗布しただけでも強化材として活躍しています。

「アラミド繊維」と「エポキシ樹脂」は非常に相性が良く、お互いの持ち合わせる強度が相乗効果となり耐震性を高めることが出来ます。

また、この工法は高速道路や公共工事などにも採用されるほどの信頼性があるのと、重機は不要で短期間で工事を完了させることが出来るため、非常にコストパフォーマンスに優れています。

基礎補強工事・ハイブリット工法の工程と費用を紹介!

使用材料について(アラミド繊維シート・タックダイン)

当社ではアラミド繊維シートとタックダイン(エポキシ樹脂)を使用しています。

上でもご紹介した通り、アラミド繊維は鋼鉄の5倍もの引張強度を持つスーパー繊維です。コンクリートは上からのお家の荷重には強い物質ですが、地震などでの横への引張力に弱い構造となっていて、施工することによりそれを補ってくれるものになります。

また、エポキシ樹脂はそれだけでも表面保護と、コンクリートの強度を上げてくれる強化材兼接着剤です。この2つの素材を組み合わせることでより強力な力から耐えられるような補強効果を果たしてくれます。

※ご希望であればNEWタフロンやパワーアラストでの施工も可能です。

基礎補強工事・ハイブリット工法の工程について

ハイブリット工法の工程は次の通りです。

  1. 養生
  2. 表面ケレン処理
  3. 地面掘削(布基礎の場合)
  4. 下塗り材塗布
  5. 中塗り材塗布
  6. アラミド繊維シート貼り付け
  7. 上塗り材塗布
  8. 整地・ゴミ片付け

1.養生

砂埃や塗料などからお家を汚さないようにしっかりと点検口まわりを養生します。

2.表面ケレン処理

写真のように、コンクリートの表面には劣化によるでこぼこがある場合が多いです。そこでまず基礎コンクリートの表面の汚れや劣化部分をきれいにしていきます。でこぼこがひどい場合や窪んでいたりする場合は、きれいに施工ができないため、サンダーを使うか、パテ剤で平らにしていきます。

また、ひび割れにシーリング材や断熱シートが貼ってある場合についても同様にきれいにします。この表面ケレン作業の精度が後の作業にとって重要な役割を果たすためきっちりと時間を使って作業を行います。

3.地面掘削(布基礎の場合)

床下点検口を開けると、土になっているお家は「布基礎」と言われるお家で床下一面に土がありますが、そういったお家では基礎コンクリートのキワの部分を掘削していきます。

この作業によりエポキシ樹脂を塗布する面積が増えより強度が増すのと、よりきれいにアラミド繊維シートや上塗りをすることに繋がります。

※ベタ基礎(床部分がコンクリート)の場合はこの作業はありません。

4.下塗り材塗布

表面ケレン処理、地面の掘削が終わったら、下塗り材(タックダインPS-10G)を塗っていきますが、においが強い薬剤を使用するため、換気扇などで空気を入れかえます。主剤、硬化剤を3:1の割合で混ぜます。

下塗り材の塗布は次に塗る薬剤がより接着するよう、しっかりと隅々まで基礎コンクリートにしみ込むようにたっぷり使用していきます。作業員はにおいでの健康対策のために防毒マスクを使用して作業にあたります。

5.中塗り材塗布

次はタックダインPE-10GⅡで中塗りをしていきます。こちらも薬剤は主剤、硬化剤3:1の割合で混ぜます。

また、このタックダインは中粘度のものでかなりドロドロとした薬剤となっていて、接着剤の代わりだけでなく、表面保護や強化材としても使われているものです。この薬剤でアラミド繊維シートが貼り付くよう厚めにしっかりと塗っていきます。

6.アラミド繊維シート貼り付け

中塗りの工程が終了したらすぐにアラミド繊維シートを貼り付けていきます。脱泡ローラーで空気を抜きながらよりコンクリートにシートの全てが密着するようにしていきます。薬剤が乾く前に接着させます。

通気口部分は強度が弱いため、アラミド繊維シートは様々な幅のものを使用し、縦・横方向に貼り付けして強度を上げていきます。アラミド繊維シートを使用する密度や幅、量によって強さが変わるため、出来る限り強度アップにつながるように施工しています。

※写真の通気口下部分はアラミド繊維10cm幅を2枚重ねて貼っています。

7.上塗り材塗布

アラミド繊維シートがさらに密着して貼り付くように、上塗りをおこなっていきます。繊維シートの繊維が見えなくなるくらいまで厚塗りを行います。

8.整地・ゴミ片付け

上塗りがきちんと塗布されているかチェックが完了したら、堀った土を元に戻し、床下にあるゴミを片付けて完了となります。

ハイブリット工法の価格(金額)について

弊社では1mあたり17,000円(税別)となります。20m以上の施工については割引サービスがございますので担当にお尋ねください。

ハイブリット工法の施工期間について

部分補強や施工範囲が30m未満であれば1日、それ以降の範囲については2~3日となります。

基礎補強工事・ハイブリット工法を施工する前の3つの注意点とは?

注意1:アラミド繊維シートの種類や使用量について

基礎補強工事でコンクリート強度を上げるためにはアラミド繊維が非常に重要な役割を果たしています。そのためきちんと貼るという施工精度も大事ですが、アラミド繊維シートをどれだけの量を使用するのか把握する必要があります。

例えば、基礎の立ち上がりの高さが40cmに対して、10cm分のアラミド繊維シートなのか、20cmか、30cmかで施工後の強度が大幅に異なります。ホームページで最安値で安く見せているところは幅10cmのこともありますので、よく注意してください。

注意2:ひび割れしやすい部分の施工方法について

基礎コンクリートは弱くなっている部分にひび割れが起こりやすいです。通気口の下や、配管で穴が開けられた部分はただアラミド繊維を貼るだけでは強度アップにつながりにくいため、縦方向・横方向の両方向で強化が必要となります。

注意3:強化・保護材のエポキシ樹脂を適切に使用しているか

アラミド繊維シートを貼り付けていくために強化材兼保護材である「エポキシ樹脂」ですが、適切に使用しないとアラミド繊維も本来の強度を出すことができません。

外壁塗装の塗料で用いられるものは通常乾かして再度塗る方法をとられていますが、基礎補強のエポキシ樹脂については、2回目、3回目の塗料は乾く前に厚く塗らなければなりません。

乾く前に塗り重ねることに、さらに厚い保護膜を形成するため、よりがっしりと保護できるからです。

アラミド繊維と炭素(カーボン)繊維との強度の違いは?

強化繊維として「アラミド繊維」とよく比較されるのが「炭素繊維(カーボン)」です。どちらも強化繊維ですが、どのように違うのでしょうか?繊維についてまとめてみましたので、ご覧ください。

使用用途 強さ特徴
アラミド繊維宇宙船、防弾チョッキ、タイヤなど鋼鉄の5~8倍 鋼材と比較し、重量は約5分の1、引張強度は約7倍です。軽量のため施工に重機が不要で、狭い作業空間での施工も可能です。
炭素繊維航空機、自動車、スポーツ用品など 鋼鉄の6~10倍 高温処理によって炭素の分子が独特の結晶構造で強く結びつくため、軽くて丈夫という特徴があります。さびにくく耐熱性に優れ、電気を伝えやすいという特性があります。

アラミド繊維も炭素繊維も、どちらも基礎補強工事に浴しようされる素材で軽くて丈夫という特徴があります。

素材の強さだけみれば炭素繊維のほうがアラミド繊維よりも若干強度が高いですが、耐摩性は「アラミド繊維」の方が強く、「炭素繊維」はコンクリート表面のでこぼこによっては剥がれやすいという難点があるため、「ハイブリッド工法」にはアラミド繊維が採用されることが一般的となっております。

また、単純に素材の強度にも注意しなければなりません。一括りにアラミド繊維(炭素繊維)シートといっても様々な種類があり、その密度や幅に大きな差があります。

市販で売られている繊維シートは薄いものが多く実際に補強工事をするためには強度不足となります。施工する会社によっても使用する繊維シートの密度や幅、貼り方が異なるため施工にあたっては、くれぐれも注意をしてください。

基礎コンクリート補強(補修)の他工法と、施工する理由について

一番最初にもお話しましたが、住宅の基盤ともなる基礎コンクリート。基礎コンクリートは経年により劣化をする為、強度を保つ為にもメンテナンスを行っていく必要があります。

1981年に改正された建築基準法により、基礎コンクリートを施工するルールが変わりました。1981年以前に建築された住宅の基礎のほとんどは「コンクリートのみ」で施工されているのに対し、1981年以降に建築された住宅の基礎は「コンクリート+鉄筋」が必須条件として施工されています。

ではなぜ基礎に鉄筋を入れる必要があったのでしょうか。

それは基礎コンクリートの強度を上げるためです。コンクリートは気温や湿度の変化などで伸縮を繰り返す性質を持っています。打設時には特に影響を受けます。

さらにコンクリートは上から押される力(家の荷重を支える)には強いのに対し、横からの引っ張られる力には弱いという特徴もあります。その為、地震などの揺れがあった際に、引っ張りに耐えられずクラックが発生してしまいます。

それに対して鉄筋は、引っ張られる力に強いという特徴があります。

その為、基礎コンクリートに埋め込むことで、横からの引っ張りに強い基礎コンクリートになるということです。

無筋の基礎コンクリートは耐震性を保つ為にも補強を行う必要があります。しかし、無筋の基礎コンクリートに後から鉄筋を入れることは出来ません。

その為、基礎コンクリートの補強(補修)にはいくつかの方法があります。

基礎コンクリート「クラック補修」

最も簡易的なのは「クラックの補修」です。前述したとおり、基礎コンクリートは性質上、自然にクラックが入り劣化をします。しかしクラックを補修することで強度を保ち直すことが出来ます。

その為、クラックなどが入ったらその都度補修をする必要があります。有筋の基礎コンクリートであれば、このようなメンテナンスをすることで強度を保つことは可能です。

しかし、無筋の基礎コンクリートの場合は、補強工事で強度を保つ必要があります。

基礎コンクリートの「基礎の増し打ち」

基礎コンクリートの補強方法として「基礎の増し打ち」があります。

これは既存の基礎に対して、コンクリートを抱かせるように施工を行うことで、増し打ちしたコンクリートと一体化させ、強度を上げるという方法です。

さらに床下前面にコンクリートを増し打ちすると、基礎全体が一体化し、さらに強度を上げることも出来ます。

しかし「コンクリートの増し打ち」という工法は大きなデメリットがあります。

それは高コストだということです。

コンクリートを床下へ施工する為に、室内の床を剥がす必要があることや、専用重機を使用する必要があるためです。

その為、基礎コンクリートの補強のみを検討しているといった方には不向きな施工方法です。

一戸建てのお家での補強価格はどれくらい?

基礎補強は様々な方法がありますが、気になるのはその値段だと思います。

まず最初に紹介した「コンクリート増し打ち」です。

前述したとおり、コンクリートを増し打ちするためには室内の床を剥がす必要があったり、重機を使用する必要があります。

その為、予算は200~300万程で、工期は1ヶ月以上掛かります。

次にお勧めの「ハイブリッド工法」です。

ハイブリッド工法の相場は\20,000/m程です。

一般的な住宅の基礎コンクリートは、30~50m程なので、60~100万程になります。

工期は1~3日ほどで完了します。

さらに室内工事などの付帯工事なども不要です。

まとめ

基礎コンクリートは住宅を支える上で最も重要な基盤となります。

万が一劣化している状態で、大型地震などの強い付加が掛かってしまった場合、住宅の傾きだけでなく倒壊に繋がる恐れがあります。

そういった大きな被害に繋がらないためにも、基礎の補強は十分に行っておく必要があります。

床下点検・検査

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